奈良大学通信まよい鹿

奈良大学通信教育部に入学しました

尊敬するひと 後醍醐天皇一宮尊良親王 ~歴史文学論②~

先週末、関西ローカルテレビで、
緒形拳主演『将軍家光の乱心 激突』が
放映されていました。
この1989年バブル経済末期の作品、
今回まともに観て、
素直に面白いと感心しました。
あー、こんなんだったよな、
昭和の終わりごろの日本映画って、
やたら元気溌剌だったよな、と。

ざっくりとあらすじを述べれば、
乱心した徳川三代将軍家光が
世継ぎの竹千代を暗殺しようとする、
それを緒形拳扮する刑部たちと戦いつつ、
息子は父のいる江戸へ向かうという、
スターウォーズ(?)みたいな活劇です。

緒形拳千葉真一丹波哲郎長門裕之
松方弘樹と、豪華絢爛たる陣営。
昭和の名優の満漢全席、おなかいっぱい。
で、アクション時代劇はさておき、
私が意識を留めたのは、
味方が一人二人と死んでいく中、
竹千代の「我らは負けたのか?」
との問いかけに刑部が
「若子が生きておられる限り、
我らは負けではない」と答えると、
「余が生き続ければ、我らの勝ちか!」
と竹千代が断言するシーンです。

私は、すさまじい記憶の回帰に、
マドレーヌを食べたプルーストのように
冴え冴えとした幸福感で満たされました。

貴種を御旗に掲げて戦う。
これは日本史に限らず歴史の当然です。
で、私はこどものころから、
貴種の方々はどのような気持ちで、
自分のために命懸けで戦っている
下々の者を見ておられるのだろうか、と
懸念しておりました。
「あやつら勝手に戦って、勝手に死んだ」
とか宮様方が舌打ちしていたら、
下々はやってられないよな、と。
その反面、したくもない戦に
人質みたいに連れ込まれて、
最後は全滅にまで巻き込まれる、
貴種の方々のやるせなさも看過できない、
とも思えました。

で、上記の竹千代の言葉。
なんだかもう、グッときました。

私が歴史上の人物で尊敬する方、ふたり。
ひとりは鑑真和上。
もうひとりは、
後醍醐天皇第一皇子、尊良(たかよし)親王

鑑真さんにつきましては、
何も言うことはないと思います。
で、尊良親王について。
この方の死にざまは
この方の生きざまそのもので、
私もできるならこんなふうに幕を引きたいと
寝ぼけたことを願ってしまうほど、
心臓を射貫くものなのです。

南北朝時代、越前金ケ崎の戦い。
足利軍による一冬にも渡る
地獄絵図さながらの兵糧攻めに遭う中、
新田義貞の息子の義顕が
留守居の大将を務めていました。
(この戦について、
総大将の義貞みずから陣を離れたという
有り得ない事実、
情けなくて情けなくて、仕方ありません。
軍事責任者の戦線離脱、
どんな理由も罷り通りません。
新田義貞という男、
悪い人間ではありませんが、
こういった度しがたい詰めの甘さには
目も当てられません。)
しかし、義顕、持ちこたえられず。
自分はその命でもって責任を負うけれど、
武者ではない尊良親王へは
敵への降伏を、義顕は進言したのです。
生き延びてください、と。

すると尊良親王
常にも増して朗らかに笑い、
(『太平記』にそう描かれるということは、
いつも笑顔、優しい方だったのでしょう、
尊良親王は。
だから、武闘派の父帝には後継者と
認めてもらえなかったのかもしれません。)
「元首は、股肱の臣あってこそ。
そなた失くしてどうして私が元首でおれる。
ともに冥土で仇を討とうぞ。
さて、いかにも私は武者ではない。
自害の仕方を教えておくれ」と尋ねました。

……こんな凄惨な状況なのに、
まるでみんなの心を和ませるように、
爽やかに励ますように教えを乞われたら、
義顕でなくったって
誰だって号泣しちゃうよ! ……です。

「自害とはこのようにいたします」
と二十歳の義顕は見事に自刃して果て、
三十歳の尊良親王もそれに倣いました。
300名の家臣も二人の跡を追い、
城には火が放たれ、陥落しました。
越前金ケ崎城、
まだ訪ねたことがないのですが、
必ずお参りに行きたいと願っています。

尊良親王は、
自分の立場をほんとうに弁えた方でした。
人の上に立つ、
その意味の真実を知っている方でした。
最期の最期、下々こそ慮る方でした。

骨と皮に痩せ衰えた随身の者たち、
彼らを単純に尊良親王
見捨て置けなかったのかもしれません。
数えで11歳の竹千代とちがい、
尊良親王は『おとな』でした。

生き残った竹千代と、
皆と一緒に死んでいった尊良親王
一見真逆に見えますが、
人を信じる、その心は同一です。

地獄に等しい絶望のさなかでも、
尊良親王は常の笑顔で応じる方なのです、
「そなたたちあっての私なのだよ」と。

『仁』とは、
尊良親王こそ表す言葉でしょう。


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思い出アルバム。
昨年秋に訪れた不退寺。
私、猫ばっかり撮っています。
そんな猫好きでもないと思うのですが。


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不退寺には
業平さんの事物ばかりでなく、
こんな古代の遺物も。


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ざらしが良い。
奈良って、贅沢です。